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In-mates 感想

現代美術家・飯山由貴さんによる映像作品、In-matesをオンライン上映で見たのだが、ここ最近忙しく、なかなか感想を書けずにいた。
この作品は、東京都人権部からの検閲を受けた経緯があり、今現在、世の中の差別的な問題が再燃する中、そういったものへの再考も兼ねて考えていく必要があると感じる。

内容としては、当時の時代背景、関東大震災時における、朝鮮人虐殺事件と、当時日本の精神病院に入院していた二人の朝鮮人、患者Aと患者B、この二人のうち、患者Aはそもそも労働階層で、Bはインテリ層と思われる。
ドキュメンタリーパートにおける取材から、この作品でパフォーマンスを行う、ラッパーのFUNIは、特に患者Aに共鳴したものと思われ、当時のカルテの情報から、仮の患者Aの心情を引き起こすという、ある種のフィクションを演じる。そもそも、患者Aは日本語を話さないため、その記録が残っていない。
記録と書いたが、ぼくとしては、当時のそういったカルテという記録が残っていることに驚いた。
以前、FUNIさんと話をしたとき、患者Aと患者Bの話を聞いたことがある。ぼくは何の話をしているのか分からなかったが、どうやらこの作品についての話だったようだ。
患者Aに関しての話だが、彼はどうやらいつも歌を歌っていたようだ。そこから思うのは、故郷の歌である事は、容易に想像がつく。
情緒的なAと理論的なBという立ち位置と、そこから織り成す密室劇的な状況は、なんとなくプイグの「蜘蛛女のキス」的な状況を思い出させる。
ともあれ、飯山氏による、ラッパーFUNIの起用は正解だと感じるものに仕上がっている。

ドキュメンタリーパートにおいては、当時の事実を専門家に聞くという、至って王道的な作業であり、ある程度事実を知る人からすると、既知の問題でもある。いわゆる朝鮮人虐殺事件に関する話であるが、現代の日本においては、ここに問題があるとする風潮が、一部であるようだ。
ぼく個人が思う実態としては、「そういった事実があった」とする意見と「そういった事実は無かった」という意見、そして大半以上を占めるのは、その話そのものを知らないという事.。その中で、この作品を問題視した者とは、「そういった事実は無かった」派や、それを信じたくない者、そういった事実は都合が悪い者の、ある種都合だと思えるところがある。
パフォーマンスの内容も含め、それらがいわゆる検閲対象となった可能性は感じるところだ。これについて良いと思うか否かについては、否である。
そもそも、人権というのは、それそのものに対する意識が無かった、或いは低かったところから、人類が文明化していく中で獲得してきた意識、だからこそ、歴史的なある種の事実は、これを是正していく中で重要な意味を持つ。その中で、表現というものが重要な位置を持つことは言うまでもない。

FUNIのパフォーマンスについて述べたいが、地下通路での3部構成のような感じになっている。彼自身、在日コリアン2.5世という立ち位置からの共鳴も含め、患者Aを演じる姿は生々しいものがあり、ある種、この世界で、何らかの形で虐げられている人たちにとっては、共感を得るような内容になっていると感じる。虐げられた人々が感じているのは、自己の喪失感である。「私が何者なのか?」それを患者Aを通して見事に演じ切っており、非常に美しい、ある事実から出てきたフィクションという形になっている。フィクションと書く理由だが、何故なら、患者たちが何を喋っているのかは、今や分からないのだ。
そこから、現在の自分の立ち位置、そして世界は・・という流れだが、通して美しい。これ以上言えば、内容を教える形になってしまうので、あとは実際に作品を見ていただきたいが、一つ考えていただきたいとすれば、誰しもがマイノリティーの立場になりうるという事である。ぼく、個人的な立場からも言える事だが、それを想像する事の重要さについて考えさせられる作品だと感じる。

尚、写真はイメージです。

2017年ごろまでアニメーション等の映像作家 その過酷さから病気に倒れ、限界を感じた事から、その後写真作家に転身 イメージフォーラム・フェスティバル、バンクーバー国際映画祭、オーバーハウゼン国際短編映画際、タンペレ映画祭、キヤノン写真新世紀 LensCulture 等で発表。 写真関連は、初の写真作品で、キヤノン写真新世紀2019年度グランプリ受賞。東京都写真美術館で個展、LensCulture Art Photography Awards 2022 LensCulture Emerging Talent Awards 2023 にて Jurors’ Picksなど NHK ドキュメント20min.「蟻(あり)と人間とぼく アーティスト・中村智道」で紹介される 尚、写真等の無断使用はお断りいたします。一言ご連絡ください。 お仕事のご相談など、気楽に、ご連絡ください。 e_mail:nakamura.tomomichi@gmail.com

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