謎の中華M42マウントレンズ DSLR LENS 50mm F1.7
目次
現行M42マウント DSLR LENS 50mm F1.7 という無銘中華レンズ
中華レンズで50mm F1.7 といえば、鳳凰光学の PHENIX 50mm F1.7 をかつて所有していた。実は、これにより制作された作品は、東京都写真美術館での展示に使われた。わけあって、現在は所有していない。手放すんじゃなかったと、今は後悔している。そこで、新たに購入したこのレンズだが、50mm F1.7 でM42マウントである。光学系は同じかもしれないし違うかもしれない、まだ分からない。しかし、現状、M42マウントで新品で購入できるレンズは、この無銘 DSLR LENS 50mm F1.7 と、PHENIX 50mm F1.7 ぐらいしか、今のところ知らない。値段は6~7000円台だ。
外見は、総金属製であり、金属の薄っぺらさは感じるものの値段を考えると悪くはない質感だ。絞りリングには軽いがクリックがきちんとある。
M42マウントの他に、NIKON Fマウント、CANON EFマウントが存在し、意外にもPENTAX Kマウントは今のところ存在しない。アマゾンやアリエクで普通に購入が可能だ。
M42マウントは非常に汎用性が高いので、35mmや85mm等、もっと多くのレンズを出してほしい。
レンズ構成
こうして見ると5群6枚の典型的な変形ダブルガウスタイプのレンズで、設計はいたってオーソドックスだ。言ってみれば、写り的に大きなハズレは、不良品でない限りないだろうと思われる。PHENIX 50mm F1.7 と非常に似ているようにも見えるが、PHENIX のは、もう少しレンズに隙間があったような記憶がある。図は適当に書かれている可能性も否定はできない。ともかく、この図が正しいとすれば、別物のレンズの可能性もある。この種の一眼レフ用レンズは、そもそもツァイスのプラナーの影響が強いものが多く、この図を見て似ていると思えるレンズは非常に沢山ある。ダブルガウス構成とかで検索すると、これとそっくりのレンズは多く出てくるはずだ。手持ちのレンズで言えば、Auto-Takumar 55mm F2 や SMC TAKUMAR 55mm F1.8 等に非常に似ている。これらの設計は、元をたどれば古く、50年代には登場している。
とりあえず、以下を見てほしい。
若干形状は異なるが、非常に似ている。
ただ、Auto-Takumar 55mm F2 は、非常に色気のある絵を吐き出すレンズなわけだが、DSLR LENS 50mm F1.7 が、そのような絵を吐き出すか?は未知数だ。
絞り
絞り羽は12枚あり、かなり綺麗な円形を描いている、ただ角はあるので、光芒は出せるかもしれない。 既に書いたが、今時の中華レンズにありがちなクリックレスではなく、きちんとクリックはある。
ともあれ、この絞り枚数故、Kマウントが無い可能性も否定できない。もし PHENIX 50mm F1.7 と同じ光学系だとしても、この枚数だと自動絞りができない可能性が高い。わざわざ新たな鏡筒でレンズを出す意味はあまりないだろう。PHENIX は、Kマウントとしては、完全な機能を持っている上に、値段も変わらない。ともかく絞りが多い事から、PHENIX 50mm F1.7 Kマウントとは写りも差別化が可能だ。
側面
50の文字が大きくプリントされている。それ以外は、オーソドックスな筒状の鏡筒で、特に珍しいものではない。
マウント(M42マウント)側
マウントはアルミ製、ネジは三本で固定されている。
F1.7なので、それなりに後玉は大きめだ。
付属品
付属品は、お馴染みの巾着がある。レンズキャップとマウントキャップは、よくある汎用のものである。説明書は無いが、この類のものをわざわざ購入する人の多くは、外見だけでレンズの機能は理解できるだろう。箱は無地で、中国から普通に袋に包まれて送られてきたので凹んでいる。中国から購入する場合は、これが普通だと考えてよい。
カメラに取り付けてみる
こうしてレンズを取り付けてみると、何か新鮮な気がする。そう、このタイプのデザインは、ミラーレス用がほとんどで、一眼レフにこのタイプのデザインのレンズを付けたことがないかもしれない。それでも、フードを付けるとそれなりに様になっている。一つ残念なのは距離指標などの中心が何故かグリップ側に向いてしまっている。使用上の問題はないのだが・・
M42マウントは、ユニバーサルマウントととも言えるので、とにかく汎用性が高く、うちにある多くのカメラに取り付けることができる。そういう意味では非常に重宝するマウントだ。一眼レフ、ミラーレス共に使えるのと、SIGMA SAマウント機にも取り付けられるのが良い。
撮影してみる
以下の写真以降の作例は、クリックで等倍鑑賞可能
今は暑すぎるので、夜間ぐらいしか外に出たいと思わない。なので夜間の撮影になってしまったが、殊のほか写りは悪くない。キレッキレの画質とは言わないまでも、必要十分な画質だと言えると思う。例えば、作品使用に関しても問題の無い画質だ。他に何らかの特徴があれば面白いが、今のところ分からず、極めてオーソドックスな描写という感じだ。このような、きわめて安価なレンズとしては、写りは悪くない。ミラーレス用で同価格帯であれば、もう少し悪いものが多いのではないだろうか?設計の無理の無さも関係あるかもしれない。
夜間の手持ち撮影だけに、設定に限りはあるが、このレンズが解像しはじめるのはF2.8ぐらいからだと言える。その時点で、中央の画質はかなり良い。Takumar系のレンズと比較してみると何か分かるかもしれない。周辺に関して言えば、ややイメージサークルの不足を感じるものの、F5.6以上に絞ればフルサイズで使えるという感じだ。APS-Cで使う場合は、多くの場面で問題が起こることは少ないと思われる。安価な中華レンズ全体に言えることだが、以前から周辺画質に対する認識は甘いと思う。中華レンズの多くは、意外にも小型指向であり、それ故なのか、周辺画質の甘いものが多いという印象がある。その点を考慮するならば、オールドレンズよりも、均一性に関しては劣るケースが多い。厳密に言えば、像面湾曲が多めというケースがほとんどで、隅でピントを合わせれば、その部分はきちんと合うものが多いと思う。
とりあえず、最初の撮影は夜間だったので、太陽が昇る、早朝以降の写真は必要だろうと思う。
夜間撮影は、比較的、モヤっとするケースが多いが、今回は比較的シャキッとしているように感じる。
太陽光の元で、どの程度写るのか、また確認しようと思う。
逆光
早朝、日が昇り始めたので、撮影してみたが、この類の中華レンズとしては、逆光に弱いとは言いがたいレベルだ。PHENIX とは違う光学系なのか、それともコーティングが異なるのか?
直接太陽が入るように撮影してみたが、このレベルなので、この類のレンズとしては非常に逆光耐性は高い。オールドレンズとは比較の対象にならないレベルだ。しかし先程の撮影とは異なり、画面左側の描写が気になる。前回の撮影で、片ボケを疑ったが、やはり片ボケかもしれない。
均一性
こうして撮影してみると、中央の描写は立派であはあるが、画面左側は明らかに片ボケであることが分かった。単純な構造なので、調整で直る可能性があるので、そのうち調整してみようかと思う。しかし、右側も隅は解像感が低く、やはり周辺画質そのものは、解像のピークを中心に置いたとしても、それほど高いものではないかもしれない。APS-Cで使うのであれば問題の無い画質なのと、ある程度距離を置いた撮影であるならば大きな問題生じないかもしれない。
これらの画像はクリックで等倍鑑賞可能なので、下のTAKUMARの画像と比較してほしいが、中央付近だけを見た場合、もしかしたら、こちらの DSLR LENS 50mm F1.7 が優れている可能性がある。
比較対象として、SMC TAKUMAR 50mm F1.4 で撮影してみたが、こちらは、四隅はともかく流石の均一性を持っている。色が暖色ぎみなのは、トリウムレンズ特有の黄変がややあるのと、このころのTAKUMARは、アンバー系の色だからだ。数十年の違いがあるとはいえ、TAKUMARの光学系は1枚多く、補正に関しては、DSLR LENS 50mm F1.7 よりも優秀と言える。そもそもだが、DSLR LENS 50mm F1.7 の光学系の設計は、TAKUMAR 50mm F1.4 よりも一世代前のものを採用している。あと、当時のより高価な硝材を使っているのであり、近年売られている、安価な中華レンズと簡単に比較できるものではない。当時の本気の技術と、とりあえず枯れた技術で、安い硝材で安く作るのとでは、やはり光学性能に違いは出ると思う。
中華レンズはオールドレンズ的な画質と聞くことが多いが、事実はそうではない事が多い。もちろん、本気で作られた中華レンズが、かつて本気で作られていたオールドレンズに対して劣るかと言われればそうではなく、それは現代の日本のレンズに近いか、或いは同等のものになっている。
SMC TAKUMAR 50mm F1.4 も変形ダブルガウスだが、後群に一枚レンズが多い。設計は60年代のもの。
分解してみる
思った通り、簡単に分解できた。このあたり、オールドレンズそのままの構造といった感じで、何ら難しくはない。中身は、レンズ構成図の通りである。思うに精度の点で問題の生じやすそうなこの合わせレンズ部分だが、180°回した感じで元に戻してみた。他のレンズとの打ち消しあいをねらった形だ。これで完全に直るかどうかは分からないが、前玉なども数回回して調整してみた。
試し撮り
片ボケは大幅に修正したが、これにより両側ともボケている。つまり、周辺画質は、やはりTAKUMARほどではない。ただ、APS-Cでの使用では、ほぼ問題にならない事も確定した。もう少し離れたものを撮る場合は、更に問題は無くなるかもしれない。周辺と中央の解像感が異なる大きな原因だが、像面湾曲によるものだ。周辺でピントを合わせれば、それはきちんと解像する。早朝に手持ち撮影のため、微ぶれはご容赦を。
左右の解像度は変わらない。このレンズだが、特に中央の解像が全体に対して顕著に高い。ともかく、最新のM42レンズであり、こちらとしては、ありがたいかぎりだ。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome でもう少し撮ってみる
もう少し遠くを撮ると、画面の均一性は高まる。なので、風景で大きな問題は生じない可能性が高い。それにしても、高解像の K-3 Mark III Monochrome のモノクロセンサーで中央は見事に描写されている。
ちなみに、この類の安い中華レンズは、基本的にオーバーインフなので、無限遠は、自分できちんと合わせる必要がある。ぼくは、分解して、無限遠調整をすることもあるが、このレンズではやっていない。
モノクロ写真は、いずれもイエローフィルターを使用している。
開放
絞り開放の描写は、やや甘い印象、普通のダブルガウス系のレンズなので当然と言えばそう。このレンズが解像していると感じられる絞り値は、F2.8からだと思う。
もう一度逆光
F11まで絞って、太陽をまともに入れて撮ってみた。やはり予想以上に逆光には弱くない。強いと言っても良いかもしれない。それと、F11に絞れば、流石にAPS-Cだと、回折現象でモヤっとするかと思ったが、そんな感じではなく全体的に非常に解像している。とりあえず好奇心で入手したが、完全に使えるレンズで嬉しい。
SIGMA SD Quattro H でも撮影してみる
先ほど、このレンズが解像しはじめるのは、F2.8からだと述べたが、ご覧のとおり、中央のバイクは非常に解像されている。前後のボケも悪くないと思う。
状況によりけりだが、四隅はフォビオンらしく緑かぶりする。これは、対応レンズ以外では珍しくないので普通である。気になる場合は修正する必要があるだろう。
SIGMA SD Quattro H は、APS-Hのセンサーだが、レンズの修正後このような感じで非常に高い均一性を持つようになった。このくらいの距離感があればフルサイズでもかなり均一感は高いと思われる。
もう少し近くであっても、F11であれば、かなり画面全体においても解像するようだ。まだ分からないが、このレンズのピークはこのあたりだろうか?中央に関してのピークは、もう少し速いところだと思われる。
感想
DSLR LENS 50mm F1.7 は、非常に安価ながら、それ以外の安価な中華レンズを上回る要素も多いと思った。M42は非常に汎用性が高く、現代においても重宝されるマウントだ。画質に関しても、定評あるダブルガウス方式を採用しており。突出したものは無いとしても、普通に良いと言える。絞りは円形に近いため、絞っても綺麗な玉ボケが現れる。フルサイズでの使用においては、周辺画質が若干気になるが、使いようかもしれない。
M42マウントは、豊富なレンズがあるが、新品が欲しい場合は、DSLR LENS 50mm F1.7 は、良い選択肢になると思う。
個人的には、あまり問題を感じておらず、使いようだと思っている。今後おそらく作品制作にも使うだろう。
非常にコンパクトで軽いため、バッグやリュックに忍ばせておけば、いざというときに使えるのも美点だと思う。当然ながら、フィルム一眼レフやミラーレス機での使用も可能だ。
また時間がある時に撮影して、何かアップしようかと思う。